※ただラーメンを食べに行っただけのお話です
その知らせは突然だった
村人(保育園パパ友達)がゆっくりと、重い口を開く。
「なぁぱぱりんよ、知っているか——
どうやら最近、吉祥寺に”悪魔”が出現するようになったらしい。
あ、いや、いやな…だから何ってわけじゃないんだ。
ただその、お前が勇者だっていうからさ、もしかしたら興味を持つんじゃないかって…
でも、間違っても一人で倒そうだなんて思うなよ…忠告はしたからな。」
なるほど、悪魔か…
わかっているさ。
40歳を超えた俺に、もう凶暴な魔の遣いと対峙する気力は残されていないよ。
それこそ、息子たちの世代がなんとかしてくれるはずだ。
頭ではそう理解しつつも、俺の脚は冒険者ギルド「食べログ」へと向かっていた。
無論、討伐対象であるクエストモンスターの情報を片っ端から集めるためだ。
”白き悪魔”
どうやら討伐対象モンスターの巣食う拠点は「平太周」というらしい。
食べログギルドのランク判定は「☆3.38」とされる。
しかし吉祥寺とは別フィールドの神保町でも同種が確認されているらしく、そちらのランク判定は「☆3.64」。
なるほど、それなりの装備は求められるようだ。

ここが「平太周」か…
赤い提灯が怪しげに光る、漆黒の妖艶な佇まい。
足を踏み入れたら最期、覚悟はできているんだな?と問いかけられているかのようだ。

勇者もナメられたものだ…
ご丁寧に布陣に関する情報を貼り出しておくとは。
よほどの自信があるのだろう。
左上の法則に従い、敵のアタマは「特製らーめん」と見て間違いないだろう。
此れを、本日の討伐対象とする。
勇者の地が騒ぐ。
さあ、仕事の時間だ。
討伐クエスト開始
敵陣に一歩踏み入れただけで感じる違和感。
(床が…滑るだと…?)
オープンしたばかりの拠点故、一見すると小綺麗な内観だが、とにかく床が滑る。
なるほど、白き悪魔とやらはどうやら油を操るようだ。
力でねじ伏せるパワー型タイプと聞いていたが、相手の機動力を失わせるダンジョンを用意しておくとは、なかなかの策士と見える。
軍師と思わしき店員がチラリとこちらを見て、ゆっくりと口を開く。
「…ラーメンのお好みはどうされますか?」
完全に油断していた、これが平太周におけるコールというやつか。
す、全て、普通で。お願いします。
どうやら「味の濃さ」「脂の量」「にんにくの量」を選べるようだったのだが、思考する前に言葉が出ていた。
良くないぞ勇者よ、これでは完全に敵のペースだ。
落ち着け、落ち着け…
戦々恐々としながら周囲を警戒し、5分ほど経っただろうか。
それは突然、現れた。

(…!!!!!???
し、白い、まるで豪雪地帯の吹雪の後のようだが、一体なんなんだこれは、
見たことがないラーメン、まさか新種なのか…?)
登場と同時に巻き上がるにんにく臭。絵に描いたようなこってりラーメン。
笑わせてくれる。いいじゃないか。
まずは相手を知りたい。
スープから攻めてみよ……う…
(こ、こいつ、表面を分厚い油のシールドで覆っているだと…?これが背脂か。
ひさしぶりだよこんなに興奮しているのは。
レンゲを持つ手が震えるぜ…)
恐れ慄きつつスープを一口。
これは、イケる。
見た目ほど強靭な攻撃力は持ち合わせていないようで、とても飲みやすい。
荒々しく醤油が際立つわけでもなく、背脂の甘みともマッチし絶妙な連撃をしかけてくる。
これは、私も勇者として本意気で臨なまければならぬようだ。
いくぞ。

そう。
私はまだこのとき、「白き悪魔」の本当の恐ろしさに気付いていなかったのだ。
相手のHPも半分以上を削り終え、勝利も目前かと思われたそのとき。
(な、なんだ…?
箸が進まない。体が、動かないだと…?)
悪魔は仕掛けていたのだ。
私に「優勢」を思わせ、勢いと力に任せた立ち回りをする中で少しずつ「時間操作」のアビリティを。
悪魔には見えていたのだ。
重い油に脚を取られ、箸すらも持ち上げられなくなる勇者のなさけない姿が。
(なるほど、完全に踊らされていたというわけか…
相手にとって不足がない、などと抜かしている余裕はないようだ。
…一気に仕掛けるぞ!!!)
相手の隙を見て、辛うじて動く左手を使いバッグの中から黒烏龍茶を取り出すと、一気に半分ほどを胃に流し込んだ。
念には念をと、マヒを解除するアイテムを持ってきていたのは正解だった。
右手にも力が戻る。
問題ない、まだ戦える。
ボロボロになりながらも、ついにぱぱりんはクエストモンスターの討伐に成功した。

平太周での戦いを終えて
額の汗を拭い、拠点の外に出る。
数分前には「もう見れないかもしれない」と思っていた青空が広がっていた。
今回のクエストはなかなかにハードだった。
相当な経験値とカロリーを得た 得てしまった だろう。
白き悪魔、敵ながらあっぱれであった。
またいつの日にか、拳を交えられる日を楽しみにしているぞ。
(——冒険は、まだ始まったばかり。)
ぱぱりんnote 〜あとがき〜
ごちゃごちゃといろいろ好き放題に書きましたが、はい、非常に美味しかったです笑
吉祥寺には定期的に出向いているのですが、こってりらーめんを検討する際の新たな選択肢の一つになり得ると思いました!
らーめん好きの知人の話では、吉祥寺の平太周は神保町とはまた違った背脂ラーメンの魅力があるそう。
他店舗で食べたことがある方もぜひ吉祥寺へいらした際には!
(僕と同じくらいの年代の方々は、黒烏龍茶を準備しておくことをオススメします笑)
あと、今回は特製らーめんをいただきましたが、「爆盛油脂麺」という3,000キロカロリーを誇る汁なし、いわゆる油そばも存在します。
この裏ボスは恐らくぱぱりんレベルでは討伐不可能なのですが、トップランカーの皆様はぜひ挑戦してみてほしいです。
※公式HPで確認したところ、神保町と五反田ではテイクアウトも行っており、デリバリー(Uber Eats)も対応しているようです!
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